当プロジェクトについて

虐待に遭った子ども達の心のメッセージ

 一般社団法人ソーシャル・アーティスト・ネットワーク(以下、弊団)は、2012年より虐待に遭った子ども達が暮らす児童養護施設での音楽教室・絵画教室・家庭的図書環境構築など、アートを通じて子ども達を応援してきました。

 その中で、子ども達と接する際、自身の気持ちや考えを言葉で表現することが苦手で簡単に会話を済まそうと素っ気ない言葉を発したり、ちょっとしたやり場の無い状態になっただけで条件反射的に癇癪を起こし暴力的になったりなど、様々な子ども達の心のメッセージに出会うことが多々ありました。また、子ども達の多くが、高校卒業と同時に施設を退所し就職しても、職場での人間関係がうまくいかず転職を繰り返した挙句無職となったり、表面的な優しさに騙され望まない妊娠・出産後子を育てられず施設に預けたりと、対人的・社会的能力の低さによる社会生活の困難や、いわゆる心の貧困の連鎖に直面しているという実態も施設職員の方から伺いました。

 

子ども達の自己肯定感とソーシャル・スキル・トレーニング

 これらの原因と課題について、医学の世界では、虐待に遭った子ども達の多くは愛着不全や前頭葉発育不全によって思考・学習の障害や対人的・社会的能力の支障が生じており、さらにはフラッシュバックにより騒いだり暴力的になったりする反応的行動を起こすことから、まずは、愛着の再獲得と感情の言語化を図り、内省・対象化を進めていくことが不可欠であると言われています。

 一方で、日本の子ども達は概して「自己肯定感」が低く、世界各国と比べてもその低さが顕著であるという調査報告(内閣府「子ども・若者白書(平成26年度版)」)は広く一般に知られていることですが、この原因として、日本の教育環境や価値観が「知」に重きを置くあまり子ども達の「情」の育成を軽視しがちな点や、家庭の中で子どもの発する「感情」に対する親の応答的対応が不十分であることが指摘されています。そこで、昨今、ソーシャル・スキル・トレーニングのような、いわゆる感情リテラシー(スキル)を高めるべく取り組みが各地で行われており、発達障害を抱える子ども達にも適用され始めています。

 

被虐待児には感情のスキル・トレーニング以前にすべきことがある

 弊団はこのような状況を踏まえて、先の事態を対処する手立てを模索し、アートに携わる者として「感情」という点に着目することにしました。

 そもそも、子ども達の「感情」は、地域周辺の人達(親、兄弟・姉妹、友達、ママ友、近所の大人達など)との「情愛」ある関わりの中で様々な経験をし、成長していきます。昨今は、地域や生活環境も以前と変わり、子ども達における人との繋がりが少なくなり「感情」の成長機会も減ってきていると考えられます。それをスキル・トレーニングという形で補うことができるのは、少なくとも親からの「情愛」を乳児期から受けてきている一般家庭の子ども達と考えられます。残念ながら、施設で暮らす子ども達の多くは「虐待」に遭っており、親からの「情愛」は皆無に近いと言えます。それ故に、弊団は「感情」のスキル・トレーニング以前にすべきことを最優先に考えました。

 

継続的に子ども達の「情愛」に働きかける

 幼少期に親からの「情愛」を受けられず「虐待」に遭った子ども達は、それを無かったこととするために脳がいわば一時的にストップ状態になり、知らず知らずの内に様々な防衛本能が働き、心を閉ざし、自身の「情愛」を育てることを辞めてしまっている状態にあります。そのような子ども達にとって、様々な大人と関わり合う事で喜びを実体感しながら、「自己の心を育てる力」をつけ、「生きる力」として昇華していけるよう、心ある大人達が彼らの「情愛」に継続的に働きかけることが必要です。そのためには、子ども達が自ら心を開き「感情」成長できるような環境を用意する必要があります。

感情醸成モデル.png
図:感情基盤と感情成長環境

被虐待児に不可欠な「感情成長を促進する環境」

 子ども達が自ら心を開き感情成長を促すには、自分たちの境遇に対する理解と情愛を注いでくれる大人達、つまり、施設職員とボランティアの存在、さらに双方の信頼関係がカギを握ります。その信頼関係からは双方の立場を超えた個々への尊重と許容が生まれ、そこから子ども達は「色々な考えや価値観を持つ多様な大人達による情愛」を感じ取ります。言わば、管理・統制などの束縛から外れた「それもあり」という空気感・安堵感が、自然と子ども達の心を開き感情を出すことに働きかけることになります。弊団はそのような環境を4つの場面で構成されるモデルとしています(図参照)。

【感情成長環境 モデル】

 ①情愛場面 子ども達との情愛を育む

 ②応答場面 子ども達の感情を受け入れる

 ③感情場面 様々な感情を共有する

 ④思考場面 なぜそう思ったのか?などを振り返る

 

 「感情基盤」とは?

 子ども達の感情形成や成長における6つの課題項目から成り立ち、それらが「自己の感情を育てていく力」となるべく協調連動するという弊団考案の「感情基盤」という概念モデルです(図参照)。

​【感情基盤モデル】

 ①感受/感じる力  ある出来事に対して感情を抱く力

 ②思考/考える力  ある出来事を観察し記憶や体験から関係づけられる力

 ③観察/観察する力 目で見たある出来事の状況や変化等の情報をより多く集める力

 ④想定/想定する力 ある出来事や状況を見て自分自身で思いを設定できる力

 ⑤整理/整理する力 ある出来事に対し混乱している気持ちを整え、きちんとした状態にする力

 ⑥表現/表現する力 ある出来事の内面的な心情を客観化する力

※これらの構想を実践しているのが、「お楽しみ交流サロン」「おやつタイムシート」「こころ日記」です(クリック)